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フィスコ統合報告書レポート

Vol.1

海外企業2018年版、統合レポート動向

2018年統合レポート含む開示情報(アニュアルレポート、サステナビリティレポート他)48社(うち欧州47%)の分析結果が、ACCE(Association of Chartered Certified Acountants)からレポートされていますので、要約をご紹介します。

まず、2016年版では50%、2017年版では58%であった、全開示情報に占める統合レポート比率が、2018年版開示では77%に増加しています。さらに、2018年版では全ての開示情報の78%において、国際統合報告<IR>フレームワークに準拠しているとしています。また52%(前年44%)が、誰を開示情報の利用者としてターゲットにするかを明確にしていますが、その中で財務資本の出し手である株主、主流の投資家、ESG投資家、等にフォーカスする傾向は薄れつつあり、44%と前年の61%より減少、結果、顧客、従業員、政府機関等を主たる開示情報の利用者として意識している傾向が現れています。企業活動における社会との関わりの進展がこのような変化をリードしています。さらに2018年版の傾向として、財務諸表情報を除いたページ数を100ページ以下に簡潔化している企業が、2016年版20%、2017年版49%、2018年版54%と毎年増加しています。

全般的に、充実している情報、逆に不十分な情報が昨年同様、顕著に現れています。8つの内容要素における”組織概要と外部環境”について、組織が何を行うか、組織はどのような環境において事業を営むのか、ならびに、基礎概念としての”組織に対する価値創造とステークホルダーや社会に対する価値創造”については、特に充実している情報と言えます。一方、下記については昨年同様に情報が不十分となっています。

ガバナンス:ガバナンス責任者による報告書に対する責任を受け入れる表明については、2016年版から引き続き、最も情報が不十分な内容となっています。

見通し:組織がその戦略を遂行するに当たり、どのような課題及び不確実性に直面する可能性が高いか、そして、結果として生ずるビジネスモデル及び将来の実績への潜在的な影響はどのようなものか、についても2017年版同様、不十分となっています。

実績、戦略的焦点と将来志向:組織が、戦略ならびに実績と、資本をどのように利用し管理しているのかとのリンクの説明手法が前年同様劣っています。

作成の基礎:組織はどのように重要性のある事象を決定するかの情報については改善が見られる一方、それらの事象がどのように評価され定量化されるかについての情報は低水準に止まっています。

特筆すべきは、組織がどのように価値創造能力に実質的な影響を与える事象をどのように特定しているかの情報については顕著な改善が見られています。さらに、組織のガバナンス構造は、どのように組織の短、中、長期の価値創造能力を支えるのか、さらには情報の結合性、他の組織との比較可能性、それぞれの適用において、ここ3年間で大きく質の改善が見られます。

一方、充実度が劣化している情報もあります。指導原則において、重要性のある全ての事象を、正と負の両面につきバランスの取れた方法によって、かつ重要な誤りがない形で含めるとする信頼性と完全性においては、昨年は顕著な改善が見られたのですが、2018年版では劣化しています。これは組織が当該期間における戦略目標をどの程度達成したかにおいて、リスクと機会に関する重大性と影響、ならびに取りまとめる際に利用した方法及び前提を説明する情報が不足していることとも関係しているようです。

価値創造能力に影響を及ぼすリスクと機会がどのように短、中、長期に渡って影響を及ぼすかの説明は、例年最も説明に苦労を要する情報です。ここは、例年作成者が苦労する、見通し(組織がその戦略を遂行するに当たり、どのような課題及び不確実性に直面する可能性が高いか、そして、結果として生ずるビジネスモデル及び将来の実績への潜在的な影響はどのようなものか)についての情報の難しさにも関係しています。

2018年版は全般的に、リスクと機会の情報開示において適切に説明できていなかったと言えます。ビジネスモデルの言明においても情報の質が劣化しています。例えば金融機関においては、プロダクトやサービスがあまりにも多岐にわたり、ビジネスモデルを経営モデルに同一化しがちな伝統的傾向にある中で、価値創造情報においてまとめきれていないことが原因とも言えます。また、そもそもビジネスモデルは、継続的な改善のために時間と資源を要するものであり、規制変更や、新たな開示情報への取組が組織をビジネスモデルから一時的に離反させることなることにも原因があるようです。

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